2012年12月12日水曜日

“Wiiならではの直感操作”が確実にゲームの魅力を増している。Wiiユーザーにはぜひプレイしてもらいたい

 カプコンが10月15日に発売したWii用ソフト「」は,2006年にPlayStation 2用ソフトとして発売された同名タイトルを,Wii向けに操作を一新して移植したものだ。
 日本画を思わせる独特なグラフィックスや,画面に直接書き込むような感覚で,さまざまな効果を得られる“筆しらべ”といった大神の神髄はもちろん健在。その上で,Wiiリモコンとヌンチャクによる直感操作で,PS2版とは違った感覚で楽しめるのがWii版のウリだ。
 本稿では実際にプレイした感想を交えつつ,Wii版大神の魅力に迫っていきたいと思う。


“筆しらべ”がもたらす大神独自の魅力はゲームとしての基礎ができているからこそ光る
 ストーリーは,大昔にオロチとの戦いで実体を失った主人公“アマテラス”が,村の守護像である大神像の姿を借りて復活し,厄災によって荒れ果てた世界の生命を取り戻していくというもの。詳しくはや,の記事を参照してほしい。

 ゲーム内容は,広大な箱庭世界を自由に探索しつつ,行く手を阻む妖怪を倒したり,ダンジョン内の謎を解いたりしつつ物語を進めていく,3Dタイプのアクションアドベンチャーゲームだ。
 なんて書いてしまうと,一見,とくに珍しくもないゲームデザインのように聞こえてしまうかもしれない。しかし大神は,過去に“日本ゲーム大賞2007”で優秀賞を受賞したほどのタイトルだ。当然,ほかの作品にはない独自の魅力が秘められている。ここからは,そんな大神のシステムについて紹介していこう。
 大神を代表するシステムといえば,arado rmt,なんといっても“筆しらべ”だ。筆しらべとは,Wiiリモコンで画面に直接線を描きこむことで発動する,アマテラスの神秘的な能力のこと。やり方は非常にシンプルで,Zボタンで筆しらべの画面に移行し,Aボタンを押しながら画面に向かって線を描けばいい。筆しらべの種類には,障害物を真っ二つにする“一閃(いっせん)”,欠けた部分を修復する“画龍(がりょう)”,枯れ木に花を咲かせる“桜花(おうか)”などがあり,その数は全部で13種類。序盤こそ使える種類は少ないが,物語を進めていくことによって筆しらべの数は少しずつ増えていく。
 筆しらべは,戦闘,アイオン RMT,謎解き,探索,イベントと,あらゆる場面で使用することになる。新たな筆しらべを入手すれば,移動可能な範囲が広がったり,戦闘における攻撃バリエーションが増えたりする。つまり使用できる筆しらべが多くなれば多くなるほど,ゲーム性の幅が広がっていくというわけだ。


 本作の魅力を語るうえで欠かせない,もう一つの大きな魅力が,戦闘時においてとくに重要となる“三種の神器”である。三種の神器とは“鏡”“勾玉”“剣”に大別できるアマテラスの装備で,それぞれが武器として活用できる。鏡は主に打撃,勾玉はムチのように伸縮する攻撃,剣は斬撃の効果がある。そして,アマテラスがこれらの武器を装備するときには,メイン装備かサブ装備のどちらで身につけるかを考えなくてはならない。なぜなら,神器はメインかサブかによって効果が変わってくるからだ。
 また神器の種類はそれぞれかなりの数が用意されているので,装備の組み合わせをあれこれ試す楽しさもあるわけだ。斬新なシステムの筆しらべばかりに注目してしまいがちな本作であるが,こういった“アクションゲームとしての基礎的な楽しさ”にも注力している点も,見逃せないポイントだろう。


ネイチャーアドベンチャーの名に相応しい癒しの空間そこにいること自体が楽しい大神の箱庭世界
 アマテラス(プレイヤー)の目的は,ゲームの舞台であるナカツクニに,自然の生命を取り戻すことだ。しかし,ただストーリーを進めてクリアするだけ,なんて楽しみ方はもったいない。本作では困っている人を助けたり,荒廃した土地に自然を復活させたり,動物にエサを与えたりといった,いわゆるサブイベントがいくつも存在する。これらのイベントをクリアをすると“幸玉”というボーナスが手に入り,アマテラスの神通力(ステータス)を引き上げられるのだ。
 アマテラスの成長は,体力の増加,墨ビョウタンの強化(筆しらべの回数アップ),持てる所持金限度額の引き上げ,異袋の強化(食べ物アイテムのストック数のアップ)といった形で表現される。
 もちろん,どの項目を上げていくかはプレイヤーの自由なので,体力に不安のある人は体力を,筆しらべを使いまくりたいという人は墨ビョウタンの強化を,といった具合に自分好みにアマテラスを成長させられるというわけだ。
 メインストーリーも秀逸な本作ではあるが,こういった“寄り道”が至るところに存在する点も,ゲームの魅力に大きく貢献しているのは間違いない。ちなみにサブイベントのクリアはは強制ではないので,ストーリーが気になる人は,どんどんストーリーを進めてしまってもかまわない。人によって違った楽しみ方ができる遊びの幅の広さ間口の広さも,本作の魅力の一つといえるだろう。

 加えて,和風の美しいグラフィックスで描かれた箱庭世界で,アマテラスを操作すること自体が楽しいという点も挙げておきたい。本作では,アマテラスがアクションを起こすと,通り道に草花が咲いたり,紅葉が舞ったりする。普段は普通の狼(犬)のようにしか見えないアマテラスは,「やっぱり神様なんだな」と思わずにはいられない瞬間でもある。アクションやRPG系のゲームでは,どうしても単調になってしまいがちな移動というアクション。本作では,その移動すらも楽しいと思わせるギミックが満載なのだ。
 筆者はプレイ当初,世界を駆け回ったりジャンプしたりしつつ,草花を見ているだけで楽しかった。日本画のような独特のグラフィックスも,そういった細かな演出が重なることで,より華やかに見えてくる。
 またプレイを中断して放置していると,アマテラスがお座りしたり,寝転がったりして,とてつもなくカワイイ犬っぷりを見せてくれるのもいい感じ。どちらかというと猫派である筆者ですら,思わず見惚れてしまった。
 日本画風のグラフィックスを,ゲームにうまく溶け込ませただけでも評価に値する本作。しかし,ゲームの魅力をさらに引き出すために,Wiiというハードの特性をうまく生かし,ゲームとしての完成度をより高めた大神の開発スタッフには,一ゲーマーとして感謝の念さえ抱いてしまう。ちょっと大げさかもしれないが,個人的にはそれくらいに「好き」なゲームだ。

Wiiリモコンでの直感操作が大神をより楽しいゲームに進化させた
 最後に,Wiiリモコンでの操作によって一新された,本作の操作性についても言及しておこう。PS2版の大神をプレイした筆者からすると,Wiiリモコンでの操作に若干戸惑いがあった。だが,慣れればなんということはなく,むしろ筆しらべを使う場面では,かなり直感的な操作ができるので,「線を描く」という行為がPS2版よりも自然に行える。
 ただ時々センサーの影響なのか,カーソルが若干ぶれて,思ったように線を描けなかったことがあったのも事実だ。またイベントなどで,ずっとリモコンやヌンチャクを振っていると,手が疲れてきてしまうこともあった。なので,その時々の気分で操作スタイルを変えられるように,Wiiリモコンだけではなくクラシックコントローラにも対応させてほしかったというのが正直な感想だ。

 まあこの辺に関しては色々な意見があると思うが,Wiiリモコンでの操作が「嫌い」というほどでないなら,本作は間違いなく「買い」の1本である。 
 なお2010年内に,シリーズ最新作となるニンテンドーDS用ソフト「大神伝?小さき太陽?」が発売予定となっている。以下の記事からも分かるように,同作はニンテンドーDSならではのタッチペンを用いた操作で,悶絶しそうなほどかわいい“ちびテラス”の大冒険が楽しめる。興味がわいたという人は,ひとまずWii版大神でゲームの雰囲気を把握しつつ,大神伝の発売日を待ってみてはどうだろうか。
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